令和6年 遠隔臨場実施要領 主な変更点
国土交通省が発行する遠隔臨場実施要領のタイトルは何年間も「建設現場における遠隔臨場に関する実施要領」でしたが、令和6年版より「遠隔臨場による工事検査に関する実施要領」に変わりました。タイトル以外も大きく変わってます。ここでは主な変更・追記点を解説します。以下、令和5年版を旧版、令和6年版を新版と呼びます。
工事本体と書類、遠隔と現地
新版では新たに書類による検査が追加されました。工事本体と工事関連書類を、遠隔で検査するか、現地/対面で検査するかで、検査方法を以下のように呼び分けています。
遠隔 | 現地/対面 | |
---|---|---|
書類 | 遠隔書類検査 | 対面書類検査 |
工事本体 | 遠隔実地検査 | 現場実地検査 |
「遠隔書類検査」とはその名の通り書類検査を遠隔で行うことを指します。遠隔書類検査の要点は以下の通りです。
- 工事書類は、検査前に情報共有システムから検査用パソコンにダウンロードする。
- 検査時には、書類一覧表で「電子」「紙」を区分して利用する。
- 受注者(現場代理人・操作補助員)・検査職員・監督職員が、複数のパソコンと大型モニター(またはプロジェクター)を利用して書類検査を行う。
対象工事、目的
旧版では遠隔臨場ができる工事は原則すべての工事に適用するとありましたが、新版では「完成検査、中間技術検査、既済部分検査、完済部分検査」を対象にするとより明確に定められました。また、目的は旧版では「段階確認、材料確認、立会」でしたが、新版では「工事実施状況検査、出来形の検査、品質の検査、出来ばえの検査」に変更されました。各工事対象の検査における書類/実地検査の可否は以下の通りです。対象工事(完成検査等)も目的(工事実施状況検査等)も「検査」なのでちょっと注意が必要です。
工事実施状況検査 | 出来形の検査 | 品質の検査 | 出来ばえの検査 | |
---|---|---|---|---|
完成検査 | 書類 | 書類 or 実地 | 書類 or 実地 | 書類 or 実地 |
中間技術検査 | 書類 | 書類 or 実地 | 書類 or 実地 | 書類 or 実地 |
既済部分検査 | 書類 | 書類 or 実地 | 書類 or 実地 | 書類 or 実地 |
完済部分検査 | 書類 | 書類 or 実地 | 書類 or 実地 | 書類 or 実地 |
360度カメラ
旧版では「動画撮影用のカメラ(ウェアラブルカメラ等)」を使うとされていて「360度カメラ」という単語はひとつも出ていなかったのですが、新版では「動画撮影用のカメラ(ウェアラブルカメラ、360 度カメラ等)」と書き換えられ、全体を通して「360度カメラ」が頻出しています。ただし、360度カメラを具体的にどのように使うのかには触れられていません。
録画
旧版では「受注者は、遠隔臨場の映像と音声を配信するのみであり、記録と保存を行う必要はない」と明言されていましたが、新版ではその文言は消されました。録画をどう活用するのか記載されていませんが、「遠隔臨場による工事検査の記録(録画)を行う場合は、発注者が主体として行うものとすること。」と明言されています。
新版で追加された注意事項
「電波状況等により遠隔臨場による工事検査が中断された場合の対応について、事前に受発注者間で予備日を取り決めて検査日を連絡すること。」とあります。機材トラブルで遠隔臨場ができなかったことが多かったのかもしれません。
「情報セキュリティ確保の観点より、公共の場等、部外者が検査内容を聞き取ることができないように、検査場所・検査方法に留意すること。」とあります。検査のやり取りを第三者に聞かれてしまったのかもしれませんが、この注意事項の意図はイマイチ分かりません。
実施手順に変更はないのですが、旧版では受注者の実施項目しか明記されていなかったのですが、新版では発注者の実施項目も追記されました。
適応性
遠隔臨場にかかる機材やWeb会議システムへの適応性が、新版の目的(工事実施状況、出来形、品質、出来ばえ)で整理されました。
未来への可能性
こんな機器/ソフトウェアがあると良いな、ということが書かれています。旧版ではこのような言及はなかったです。実際の現場で起きた課題に起因する要望かもしれません。
- 検査官用の大型モニター
- 山間部での通信確保方法、衛星通信機器
- ドローン
- 高解像度カメラ、望遠カメラ
- 騒音環境下でも使えるヘッドセット、マイク、イヤホン
- 検査個所や書類、図面を検査職員が実地に容易に伝えられるようなWeb会議機能
- 近接映像と全体映像を同時に表示できる機能